株式会社Eストアー
パラダイムシフトを見据えた事業展開を実行 石村社長、IT業界の展望を語る!
株式会社Eストアー(証券コード:4304)の石村代表取締役社長は、09年11月に開催された10年3月期の第2四半期決算説明会の冒頭で「今こそIT業界はチャンスだ」という発言があった。当社は世界経済が冷え込む中で、このようなコメントに大変興味を持ち、石村社長にIT業界の展望と同社の事業展開についてインタビューを行った。以下、その概要をまとめた。記事は取材した09年12月11日時点の内容です。
企業名 | 株式会社Eストアー |
所在地 | 東京都港区西新橋1-10-2 |
代表者名 | 代表取締役 石村 賢一 |
事業概要 | 電子商取引に関する総合的なサービスの提供 |
上場市場 | 大証ヘラクレス |
URL | http://estore.co.jp/ |
売買単位 | 1株 |
株価 | 68,200円(2010年1月8日終値) |
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(1)小(さい)×多(量)を手掛ける企業がIT会社
Question 1:
ITといえば、ソフトウェアを開発するなど、情報サービス産業のイメージが強いですが、石村社長が思い描く「IT」とはどのようなものですか?まずこの辺りから伺いたいです。
ご質問のようにITのシステムを作るとかそれを生業としていること自体が、世の中の脚光を浴びる傾向にあります。しかし、ITとは文字通り、Information Technology (情報技術)ですので、その表面的な分野を手掛けるだけがIT会社ではないと思っています。
![]() ITについて語る石村社長 |
「一見、この会社はどうみてもITとは関係ないと思うけれど、実はうまく事業を伸ばしている」、こういった企業こそがIT会社なのです。 これはインターネット関連ビジネスを例に挙げるとわかりやすいです。 グーグル社の広告収入は、世界中の個人や零細・中小企業3,000万人・社から、1日の広告料1,000円を乗じた300億円を得ています。1年間365日だと、大雑把にいって10兆円になります。個人や零細企業という規模は小(さい)ですが、3,000万人・社という多(量)という、小(さい)×多(量)によって成り立つビジネスをITと呼んでいます。 こうした時代がくることを予想して、当社は創業以来守ってきている6つのキーワードがあります。その中で、当社は「『大、多、力、量』の時代から、『小、少、心、質』の時代へ」といった内容を最も重要なキーワードとして位置付けています。 対照的に、従来型は大企業が、大量生産を行い、マス・コミュニケーションによって、ビジネスを手掛けています。 |
Question 2:
なるほど、こうした見方が根底にあるので、貴社は「日本中にウェブショップだらけに」というスローガンを掲げているわけですね。
そうですね。ウェブショップという視点からいえば、規模は違いますが、当社との比較企業の1つに楽天さんを挙げる方々がいます。確かに、楽天さんのビジネスモデルは素晴らしいですが、当社はグーグルに近いモデルに対して、楽天さんはどちらかといえば従来型のビジネスモデルに近いと私にはみえるので、収益構造は全く異なります。当社が今後成長していくためには、グーグルのようにものすごく小さなお店を、“超”大量に集めなければならないと考えて、この会社を設立し、スタートしています(注:同社のメインサービスの1つであるウェブショップ総合支援サービス「ショップサーブ」の顧客数は13,874件に上る。また、各店舗に対して独自ドメインを提供しており、この分野では同社は最大手企業)。
少し話しがそれるかもしれませんが、インターネットがなければ今日のようなビジネスが生まれなかったという一例を挙げますと、ラジオが5,000万人まで普及するのに25年の歳月を要しました。それが、テレビになると13年、インターネットにおいてはわずか3年です。グーグルの普及速度はさらに速く、そしてYouTubeに至ってはわずか26秒といわれています。インターネットの登場はまさに“核心”的な経済革命であるといえます。これをちゃんと基本的に理解すると、展望が明確になるではないか、と考えています。
Question 3:
まさにパラダイムシフトが起きているわけですね。石村社長の説明を伺うとなるほどと理解できますが、実際はなかなかこれに気付いてビジネスを行っている企業は少ないのではないですか?
少ないと思います。私は商売としては諸先輩方にはまだまだ及ばないこともありますが、この発想というか、私は“思想”だと思っていますが、これはトップクラスだと自負しています。
Question 4:
こうした考え方は、会社を興す前のサラリーマン時代からお持ちだったのですか?
これは前職のときに経験したことが身についたといえます。前職の14年間は、“インターネット”という単語が使われておらず、UUCP(Unix to Unix Copy Protocol:Unixマシン同士でデータ転送を行う通信プロトコルの一種。初期のインターネットの通信手段として広く使われていた。)といわれていた時代から、朝から晩まで今のインターネットをさわっていましたから、今日のような姿になることが明確に分かっていました。
先見の明があったといえますね。
(2)15年前にこの時代を予測、今まさにチャンス到来!
Question 5:
これまで伺いましたお話しは今日、明日に大きく変化するのではなく、大きな潮流のようなものだと思います。石村社長は09年11月の決算説明会で「今こそIT業界はチャンスだ」とお話しをしておられましたが、景気環境が厳しい中でなぜ、このような発言をされたのですか?
2つあります。1995年の日本経済新聞に「2009年に日本がデフォルトする」といった内容の記事を寄稿したことがありました。まさしく、08年には金融工学的な米国型資本主義が崩壊し、日本にも大きな影響を及ぼしました。これが1つ目のチャンスだと捉えています。もう1つは10年以上の年月を経て、今まで話してきたことが世の中で通じる時代を迎えている点にあります。これら2つが、私たちにとっては世の中をひっくり返すようなチャンスが到来した、と考えています。
Question 6:
08年秋のリーマン・ショックを境として、更なる飛躍期を迎えたといえるわけですね。
本当にそうですね。不謹慎な言い方かもしれませんが、リーマン・ショックは「よし、来たぞ!思った通りだ」という高揚した気持ちになりました。
Question 7:
マクロ経済が厳しいなかにおいて、石村社長の見通しを裏付けるように、貴社の業績が好調であることはすごいことだと思います。
業績は自分達の努力の結果というよりも、私たちの見方の正しさを裏付けているだけ、といえます。 決算説明会で「業績好調の理由はなんですか?」という質問には、「市場が伸びているからです」という答えになるわけです。 |
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Question 8:
貴社の今後の事業展開の見通しについては、結論が出てしまったようにも受け取れますが、もう少し具体的な取組みについてお話いただけませんか?
一言でいってしまえば、「今まで述べてきたことを信じて取組んできましたし、これからも従来と変わることなく信じて取組んでいきます」ということになります。つまり、最初からセットアップをしているので、あまり表にみえるような戦略に関しては、他社のように「いつごろ、これをやります」といったことがなく、「今のスタイルを淡々とやっていれば、世の中がついてくる」というものだと考えています。そういう意味で眼にみえるような大きな戦略はありません。
Question 9:
貴社は、「女性・子供・命」ということにフォーカスしています。これらはどのように考えればよろしいですか?
これは小技といっていいでしょうね。2010年から4年間、景気低迷が続くとみていますので、それを乗り切るために、いわば財布の紐が緩い順に掲げたにすぎません。男性品よりも女性品、おじいちゃん、おばあちゃんが消費するのは孫、つまりは子供用品、そして“食”の安全性が問われていますが、それを考えると“生命”にお金をかけるということによります。よって、当社が新規に獲得する店舗さんにしても、消費者向けの企画にしても、「男とか大人」よりも「女性とか、子供、生命」に関するものを優先しなさいと、社内でいつも指示しています。
Question 10:
「生命」というのは安全というものですか?
そうですね、「安心、安全」です。特に、口に入れる食品関連は、産地直送を手掛けている店舗さんの業績はここ1年伸びていることからも、消費者の関心の高さが読み取れます。また、セオリー通りですが、このような不況下でも、20代の女性用のアパレルは不況知らずで、好調です。一方、すぐに入り用でないもの、例えば、男物の趣味関連の商材などは売れ行きが落ちています。
Question 11:
売れ筋ともいえる「女性・子供・命」は好調ですが、一方で、「男、大人」といった分野も売上を伸ばすという仕組みは全体のシステムの中で当然、織り込まれていると考えてよろしいですね?
はい。簡単にいえば、売れる商品と売れない商品が一緒にあれば、単独では売りにくい商品であっても、売れる商品に引きつられて売れていくのです。このような売れる仕組みは、楽天さんのビジネスを見習っていますが、当社は消費者の目にみえる「ショッピングフィード」というサービスを店舗さんに提供しています。
Question 12:
店舗のカテゴリーは、「女性・子供・命」に注力して店舗数を増やそうということですが、新規店舗の開拓として注目しているエリアはありますか?
売り手である店舗は今後、地方での獲得を増やしていきます。他方で、買い手である消費者への訴求は中央を目指していく、という極めてシンプルな戦略を立てています。 ただどちらかといえば、経営資源は地方の店舗獲得というよりも、後者の購買を増やしていくことに比重をかけていくことを優先しています。これは、50年後の日本の人口は半減する中で、東京だけは20年後には現在の倍である2,200万人に増えることが確実視されていますので、消費量の大きさはやはり東京だろうという見通しに立って取組んでいます。 ネットビジネスという点からみれば、一見、矛盾するようは発言に聞こえるかもしれませんが、ここでも仕掛けは考えています。簡潔にいえば、買い手に向けるネット広告は東京をコアとした首都圏に集中させ、出店者向けは地方に注力していきます。
Question 13:
出店に関する営業は、代理店が対応するのですか、それとも最近、直販のウエイトが高まっていることから直販型を想定しているのですか?
願わくば、代理店による新規開拓が望ましいのですが、なかなかうまくいっていないという実情を勘案すると自社で進めていくことになろうかと思います。
Question 14:
地方の出店が増え、販売先が首都圏と考えると、ウェブ上での取引はエリアを問いませんが、物流はどうしても避けられないと思うのですが、この辺りは何か取組んでいるのですか?
いいえ、全くのノーケアです。以前、手掛けて失敗したこともあり、物流は当社のマイルストーンの中にもありませんし、今後当社が行う分野の対象外です。私たちが集中したいのは、会社がどんどん成長していっても、ヒトが増えないところがネットビジネスの良さですので、そこは大切にしたいのです。
Question 15:
戦略については伺いましたが、方策ともいえるもので代表的な事例があれば、お聞かせください。
細かな方策は一杯ありますが、これからという点に関していえば、「安全、安心、信頼、信用」ということが景気に関係なく、重要性が一層増していくと思います。そこに行き着くのは、店舗さんや消費者からの信頼性評価で、遅かれ早かれやっていかなければならないと考えています。
Question 16:
これは“格付け”のようなものですか?
ええ。売っている人、買っている人といった第三者がレーティングによって評価をしていくことになるでしょう。 今までは、大企業、大量生産、マス・コミュニケーションによって信頼感が保たれていたのですが、今後はこのような世の中ではなくなるので、ある情報が正しいかそうでないかの判断基準が異なってきます。現時点ではブログや掲示板に、タダでいいたい放題の情報を発信し、それを入手した本人自身に判断が委ねられていますが、もっとネットが普及していきますと、もう少し責任あることを伝えたり、きちんと情報を得て発信するようになってくるはずです。 こうした信頼される情報がビジネスに進展していくと考えています。すでにこうした動きがでてきています。「食べログ」とか「ぐるなび」は、例えば、誰かが故意にあるレストランの評判を落とすような風評を出しても、きちんとした情報がでていれば、それは広まりません。こうした中で、当社はイーコマース事業者なので、イーコマースに係る信頼性評価に関わっていくことが事業の1つになるでしょう。 少し重複しますが、以前は、資本力があれば、自己の力(自己の“ふんどし”)で不評を抑えることができたのですが、それが出来なくなったのがインターネットです。「正しい、沢山の情報」を活用することで信頼性を得る、というのはまさに最初に話したところに帰着します。「評価を受ける」ということは「他人のふんどし」(第三者)で評価されるという認識が重要です。 |
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(3)競合相手であり目指す企業はグーグル
Question 17:
中長期を展望した場合には、海外に目を向けるということはないのですか?
理由は幾つもありますが、少なくとも向こう10年は内需で十分だと思っています。外需にシフトすべきだ、という意見もありますが、例えば、29年の世界恐慌の例を出すまでもなく、米国では重課税をかけるような保護主義の動きが台頭してきていますし、欧州でも同様の傾向があるとみています。
Question 18:
中長期的な視点から石村社長独自の見通しなり仮説を立てて事業に取り組んでいる、ということがよく伝わってくるようで、素晴らしいですね。ところで、貴社と同じような切り口でビジネス展開を手掛けてくるような企業がでてくると、競合相手になるのですか?
そうです。ただ、表面的に当社のビジネスモデルを真似てきているような企業は散見されますが、“思想”の部分では全く異なっていますので、現在、競合相手がいるというものではありません。ちなみに、海外でIRを行うと、一部の海外投資家からは、「お前の会社はグーグルみたいな会社だなあ」とよく言われます。
Question 19:
なるほど、本質を突いてくるわけですね。
思想がグーグルにあるからですね。「コンペチターは?」と質問されたら「グーグルです」と答えたいです。むしろ、グーグルから学ぶことが多いので、もしグーグルが本気で当社の事業領域に入ってきたら、「会社をたたみましょう」(笑)。「グーグル以外で買収されたら極めて心外だけど、グーグルに買収されたらゴールだよね」と、若い社員に笑い話しとしてよく話題にしています。
Question 20:
デリケートな質問になりますが、筆頭株主のヤフーさんは、いかがですか?
ヤフーはベンチャー気質があります。ヤフーは世界32カ国に進出していますが、日本だけが独特の社風があります。これは、孫さんや井上社長の力の賜物ですね。
ちなみに、当社はショッピング事業に限ると、新規獲得件数では、ヤフーとは互角もしくはそれ以上ですので、井上社長からこの点は高く評価していただいています。しかも、新規獲得に関わっている社員は他社の10分の1以下ですから、1人当りの新規獲得件数でいえば圧倒的に当社の方が多いです。この点は、皆さん不思議がりますね。
Question 21:
魅力的なお話しですね。少しディテールな質問になろうかと思いますが、決算説明会でシステム投資に注力しているとのことでしたが、この点、もう少しお聞かせください。
この1年間は、システム自体が快適にかつ早く動くように作り直しを真剣に取組んできました。その背景としては、ネットワークのトラフィック量が、倍々ゲーム以上に増加してきて、3年半前に構築したシステムがもう限界に近づいてきたことがあります。
Question 22:
システム投資が収益の圧迫要因になるというほどの額ではないような印象を受けたのですが?
成長できる力になるようなシステム投資を考えて手掛けてきましたので、収益を圧迫するようなものではないですね。
システム投資に関していえば、この1年間は基本を良くしていこうという位置付けで、来期は基本に付随する細かな機能を付加していくための取り組みを行う方針です。投資額はこの1年と同等額を予定しています。そして、当面は、ウェブショップ総合支援サービスであるショップサーブ、サーバーのレンタルサービスのサイトサーブなどを強化、大口取次から直販、小口取次へのシフト、店舗収益連動(フロウ収益)の注力など、様々な取り組みによって、事業拡大を図っていきます。
(注:当面の事業展開は当社のHPに09年11月17日に掲載したレポートをご参照ください。アドレスは、http://report.trif.co.jp/です)
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